鉄の事・刀の事・刀工の仕事

いただいた質問や、ちょっとしたお話を書いています。

現代刀とお客様

 どんな人が刀を買うの? とよく聞かれます。
 刀は昔に作られた物も売買されています。
 古い刀であれば
・その歴史背景に思いを馳せる
・郷土で作られた刀を持ちたい
とのご意見を聞きます。

 では現代刀はどうでしょう。
・神様に事業の成功のお礼として神社やお寺に奉納
・退職記念に
・お孫さんになにか残したい
・据え物斬り等、武道の鍛錬追求に
このようなお話を多く聞きます。
 
 これには現代刀の利点が大きく関わります。
・新作刀なので研ぎ減りのない生ぶな姿である
・銘を好きに切れる、自身のお名前を入れられる
・体格や好みに合わせて寸法を決めるので“自分の刀”が作れる
昔の刀と現代刀ではお買い上げいただく意味が変わってきます。

タタラ製鉄

 日本古来の製鉄法。大陸から伝わったとされていますが、小規模の製鉄は伝播したとされる以前から日本各地で行われていたようです。
 近代製鋼の様に2200度という高温ではなく、1400度程の低温で還元・製鉄をします。近代製鋼では鉄(原料の鉄鉱石)を液体にまで熔かして、原料の鉄鉱石やコークスに含まれるリン・硫黄・マンガン等の不純物を取り除くために脱硫剤・脱リン剤を使用します。

 一方、タタラ製鉄では低温で操業するため、砂鉄が還元して出来た鋼は炉内で半溶解状態で溜まります。粘土の様な硬さです。砂鉄に含まれていた硫黄などの不純物は周りの灰などと結合してノロ(スラグ)になります。このノロは融点が低く炉内では液体になっています。こうして鋼と不純物を温度差で分離します。
 タタラ製鉄で得た鋼は粘りが強く良い刃物の材料となります。
 ただ、歩留まりが悪く材料の砂鉄の3割ほどしかとれません。その上、炭素量や介在物に偏りがあるので折り返し鍛錬で鋼を練り、炭素量や介在物を均一にする必要があります。

和鉄

 タタラ製鉄で鉄鉱石や砂鉄から和鉄を作ります。
 この鉄、質はもちろん良いのですが状態が良くありません。と言うのも、製鉄段階で鉄が熔けて液体になりますが直ぐ半熔解状になって炉底に溜まりノロや炭も混ざります。その上鉄の成分に偏りがあり、炭素量も介在物も不均一に散在しています。
 鉄は融点が高く、ノロは低い。これを利用して鋼を綺麗にします。鉄を沸かして叩く事で液体になったノロを搾り出します。叩いたら伸びるので畳んでいたのが折り返し鍛錬の始まりではないかとも言われます。
 こうして成分や組織を均一に練り上げることが折り返し鍛錬での一番大事な仕事です。 同時に鉄の組織が締まり、伸ばして畳む事で多層構造になり粘りも向上します。

鉄・鋼・炭素鋼

それぞれ含まれる炭素量が違います。
鉄・・・・・約0.02%未満  
鋼・・・・・約0.02%~約2%  
炭素鋼・・・鋼のこと
鋳鉄・・・・約2%以上
炭素が鉄に含まれると強度や硬度が増します。刀は炭素量が0.7%ぐらいです。0.4%を下回ると焼きが入らず、2%を超えると硬くなり過ぎて粘りが無くなり、赤めて叩いた時に変形せず割れてしまうようになります。

鉄の質

  鉄の硬軟は炭素量で増減します。しかし、高炭素で硬度の高い鉄であればとにかく良いと言うわけではありません。硬ければ斬れ味は良くなりますが、過ぎれば刃毀れをおこしてしまいます。刃物として大事なのは、
・炭素量による硬度
・鉄の靭性、粘り
・鉄の弾力
だと感じます。これらは終始の温度管理、鉄の結晶構造、介在物等によって左右されます。
 ここからは個人の感覚の話になります。硬度・靭性・弾力の原因はそれぞれ別にあるようですが互いに強く関わっていて、それぞれの具合を適切にまとめることが重要だと考えています。

刀の用語

 刀特有の名称や言い回しが多々あります。
 刀の数え方は「ひとふり、ふたふり」ですが、漢字では「一口・一振り」と書きます。

 刀の柄に入る部分のナカゴも「茎・中子」と書きます。どちらも使われていて、間違いではありません。この他、カタナ(刀)やタチ(太刀)は時代によって違う漢字が使われています。

 刀を鑑賞する時に「かねが良い」と表現します。これは鉄(かね)の質のことです。鉄を「かね」と読むことが多くあります。地鉄(じがね)、皮鉄 (かわがね)、芯鉄(しんがね)等。
刀の厚みのことを「重ね」(かさね)と言います。

 鐵-金(カネ)の王(オウ)なる哉(カナ)と、分解して読めるといわれます。が、鉄は錆びやすいという意味を表した「金偏(金属)に錆び」という漢字だそうです。縁起の良い方を採用しましょう。

機械

 使います。
 機械ハンマー、 ディスクグラインダー、ベルトサンダー、送風機。
 一人で仕事をする時は機械ハンマーが無ければ鉄を打てません。タタラも送風機が無ければ炭や砂鉄を入れる時間がなくなります。その他も機械を使用しますが機械に頼って仕事をするわけではなく、人手の代わり・時間短縮の目的として使用します。

 切削工具に関しまして。刀は何度も何度も鋼を折り返して鍛えます。削るなんてもったいない!刀鍛冶は手槌で姿(形)を整えるのでそもそも機械を使うほど大きく削るということがありません。細かいところは削りすぎないようにセンか鑢で仕上げます。

ただし、刃区は火造り後に切ります。製造の都合上、必要経費と割り切っている部分もあります。

現代刀工

 令和の現代、刀を作っている刀工が各地にいます。修行中の方もいます。
 日本各地で直接刀工に会える機会の多い昨今。「あちらの刀工はこんな仕事をしていた」そんな話を聞かせてくれる方がいらっしゃいます。その中で「○○刀工と仕事のやり方が違う」とも言われることがあります。
 その通り!違います!
一門によって考え方が違います。特に私は自家製鋼なので使っている鋼の性質が他の門派とは大きく異なり、当然鉄の扱い方も変わってきます。
 また、刀工個人によっても作刀時に強いこだわりを持つ部分は様々です。 これらが結果、刀の個性となって現れます。
 情報の交換や伝播の早い現代ですが多様性が生まれて良い事だと思います。
 各地で様々な刀工とその作品に触れてみてください。

タタラ製鉄、大型と小型

 現在日本で「大型のタタラ製鉄」を行っているのは島根県で行われているもののみです。一度の操業(一代/ひとよ)で三日ほどかけ、2~3tの鋼を作るそうです。参加した事は無いので。この鋼を全国の刀工が刀の材料として使っています。

 一方、「小型炉でのタタラ製鉄」を行っている刀工はちらほらいます。私は5~6時間で5kg程の鋼を作ります。他の方は10㎏前後と聞きます。
小型炉のタタラ製鉄は炉や道具を揃えれば操業だけは個人でもできます。できた鋼の質は別ですが。

 島根県で作られている玉鋼、自分で作る自家製鋼、それぞれ性質が違います。それならどちらが良いのかと訊かれます。どちらも良いと思います。
大事なことは鍛錬や焼き入れにおいて、それぞれの鋼の質に合った取り扱い方をすることです。

 私が自家製鋼での作刀に取り組んでいる理由は、
・材料から自分で手掛けたものを使える
・頻繁に条件を変えてタタラ製鉄ができることにより自分だけの鋼を作れる
という事に魅力を感じているからです。

小型タタラ製鉄・自家製鋼

 “自家製鋼” でよく一括りにされますが、造った鋼の質はかなり違います。
 人それぞれ鋼の出来が違うのは当然ですが、そもそも材料が違います。砂鉄にしろ鉄鉱石にしろ採取地が違えば性質も変わります。高い温度でなければ還元しないもの、低い温度でも還元しやすく銑になり易いもの、砂鉄の状態や介在物によって様々あります。

伝統工芸

伝統というものは何種類かあると思います。
 
刀の姿形は過去のものに倣って制作しなければなりません。武器ではなく美術工芸品として作刀が許可されているからです。

材料はタタラ製鉄で制作した和鐵、折り返し鍛錬などの伝統的な技法で作刀している、等の決まりがあります。
上記を守った上でより良い刀を作ろうと全国の刀工が日々模索しています。
刀作りの場合、伝統とは自分一人では終わらない研究を次世代に引き継いで代を重ねながら進めていく事だと思います。

現代の鋼材学では合金や熱処理の技術が飛躍的に進歩しています。令和の現代ならではの技術や知識を可能な範囲で作刀に反映させるのも 「 現代刀 」 としては良いのではないでしょうか。

刀の役目

刀とは持ち主を守る為の物です。
鍛えられた鋼で作られた日本刀には魔を祓う力が宿ると言われ、御神体として祀られている神社もありますね。
刀の逸話には凄まじい斬れ味を伝えた話があります。それと同時に病魔、鬼などを斬り伏せた話が数多くあります。
昔から戦闘の道具としてだけではなく、それ以上に破邪の力があると見られていた事でしょう。

刀剣類が国宝になっているのは日本だけだそうです。上記の様な理由があるからだと思います。

地元の材料、砂鉄・鉄鉱石

 刀の材料になる砂鉄や鉄鉱石はいろんな地域で採取が可能です。

 採集地が違えば介在物も変わります。私の知る範囲ですが、砂鉄の成分は鉄(Fe)85%でその他はリンや硫黄やマンガン等です。別の採集地のものではチタンと多分に結合している砂鉄もあります。
 当HP実験の頁で使った鉄鉱石は銅が25%含まれていました。介在物(不純物)の種類と量で鋼の性質が変化します。

 また鋼の靭性等、鉄粒子の結晶構造が影響している部分もあります。これは製鉄(還元)時の温度が関わっているとされます。

 あちらこちらの砂鉄をいただいて使用した事があります。鋼にはできても鍛伸性が無く、打つと崩れたりクラックが入り使用できない鋼になった物もありました。これについては砂鉄が悪いわけではなく、砂鉄の質とタタラの吹き方が合っていないのかも知れないと思う部分もあります。なんとなくですが。

 タタラ製鉄炉の内壁は溶けます。ここに使用する粘土の質は影響することでしょう。砂鉄採集地の土を使えばどうでしょうか。 
タタラ炭の原料にする雑木も地域で植物相が違います。そもそもタタラ製鉄炉の構造自体を各地に合わせて変えたほうがいいのかもしれません。

自家製鋼

 卸鉄(おろしがね/降し鉄)という仕事があります。鉄の欠片や、打ち延ばして小割にした鉄を2kg程集めて炉で熔かし一つに纏めるものです。
 目的は炭素量や介在物など成分の調整、鋼内の鉱滓を除く、が主になります。この他に現代鋼と古い鋼を混ぜる時にも用いられる仕事です。

 タタラ製鉄をしていない刀工の中にはこの「オリジナルブレンド鋼造り」を自家製鋼と呼んでいる方がいます。これは鋼の成分調整。

私にとっての自家製鋼は砂鉄から鋼を製鉄すること、酸化物の還元です。

  どちらも自家製鋼です。どちらかが間違っている訳ではなく同音...同語?で異義語なだけです。内容は違います。ややこしい!

玉鋼 -TAMAHAGANE-

 刀の材料、鋼。

和鐵(ワテツ)
日本古来の製鉄法、タタラ製鉄で造られた鋼。

鉧(ケラ)
和鐵。タタラ製鉄で造られた和鐵の塊。

玉鋼(タマハガネ)
日刀保タタラが刀工に販売している和鐵。
2~3tの鉧を造る。鉧を割り、断面の様子を見て品質を分ける。安来製鋼の商標として明治時代頃に玉鋼と名付けられたそうです。
注:日本刀剣保存協会(日刀保)の発足は大東亜戦争後。

私の造っている鋼は玉鋼では無い、という事です。
自家製鋼の刀工の中には玉鋼と言っている人がいますが、これは説明が楽だからです。

鑑賞会 1

 近年、博物館のみならず御刀を手に取って見せてもらえる鑑賞会(鑑定会・勉強会)が全国で催されています。
御刀を鑑賞・拝観させていただくにあたり大切なのが「鑑賞の作法」です。
刀剣は美術品でもありますがそれ以前に武器であり、評価の良し悪しに関わらず刃に触れればよく切れます。鑑賞の作法とはその刀剣を安全に取り扱う為の所作です。

鑑賞の作法は地域や鑑賞会主催者によって変わることがあります。その時の鑑賞会主催者の意見に従ってください。

大事なことは
・自身も周囲の他人も怪我をしない
・刀剣に敬意を払い傷を入れない
という事です。

多くの場合、鑑賞させてもらう刀剣は誰かのとても大切な持ち物を善意で見せて頂いています。持ち主の方に不安を与える様な扱い方をしてはいけません。感謝と敬意を以て鑑賞しましょう。

鑑賞会 2

 博物館での展示はもちろん鑑賞会など手に取って刀剣を見れる機会が簡単になってきた様に思います。

気を付けてください、簡単に見れる機会があるだけです。
雑に扱ってはいけません。

鑑賞会等にはお気軽に参加していただいたら良いと思います。
当たり前の事ですが、作法を守り刀剣と持ち主の方に敬意を払ってこそ楽しい鑑賞になります。

実用刀と美術刀

 現代刀工は作刀の目標として実用刀と美術刀に分かれることがあります。どちらかを選択する義務はありませんし、零か百かでもありません。目指すものの違いです。

 私は実用性のみ重視で作刀しています。実用を突き詰めた結果、刀に現れる鉄の働き、機能美が鑑賞として評価していただけるものになれば良いなと思っています。
 
  刀は武器です。道具としての高い性能があることが要求されます。
しかし現代は必ずしも作った刀を道具として使うわけではありません。贈答に、記念に、鑑賞に使う事も多々あります。

 完全に鑑賞用であれば作刀技法が変わる部分もあるかもしれません。その時に武器の本分から外れることがあったとしても、長い目で見れば様々な技術が生まれ、その後に実用刀の制作技法にも良い影響を与えるかもしれません。
突き詰める事も多様性も、そこから生まれる可能性も大事ですね。

何より、すでに江戸時代には鑑賞特化の刀が製作されています。貴方の理念と違う刀剣を見かけた時には、「こんな刀もあるのか」と違いを楽しんでください。

お家の御刀

 様々な理由で家から刀剣が出てきます。先祖代々の物から亡くなったご家族が買い集めたものまで。

引き継いで管理をされる方は良いのですが、「興味も無く扱いに困って売ってしまったが、これで良かったのだろうか。」との相談を受けたことがあります。
良かったと思います。刀剣は頻繁ではなくともお手入れが必要です。

売ってしまったという方は持っていてもお手入れをせずに御刀が錆びてしまい、修復が不可能になる事もあります。その様な事になるぐらいなら売ってください。刀剣商、次の持ち主さん、誰かがお手入れをしてくれます。御刀が残ります。
手放す事も良い選択肢の一つと考えられると思います。

大鍛冶と小鍛冶

 大鍛冶とはタタラ製鉄業です。小鍛冶とは加工をする刀鍛冶です。
「せいれん」を漢字変換すると「製錬(製鉄)/精錬(鉄を綺麗にする)」の二つが出てきます。昔は大鍛冶(製錬)と小鍛冶(精錬)が分業だったそうですが、工程のどこが境だったかは所説あるようです。

注:日刀保玉鋼は今も分業です。日刀保たたらに参加している刀匠もいます。私は大鍛冶兼小鍛冶。

 大鍛冶が商品である鉧を出荷するにあたり、その鉧をある程度纏めただけのもの、卸鉄までして成分の調整をしたもの、様々あったそうです。

 中には鍛え上がった鋼を販売していたと言う話も聞いた事があります。この場合刀工は芯鉄・皮鉄の組み合わせから焼き入れまでが主な仕事になっていたと予想されます。肩書は大鍛冶小鍛冶でも中間の仕事をする業者がいたのかもしれませんね。

刀を持つ

 刀の不名誉な呼び名として「人斬り庖丁」という言葉があります。
しかしこれは “刀の呼び名” ではありません。誰が持っているかという事です。

 刀は機能としては対人戦用に作られている物ですが使用目的は自分の大切な物、自身の誇り・家族・国を守る為です。
節度を持ち、背筋をのばして自分に対して胸を張れる人が持てば “刀” になります。
逆に、言い訳をしながら人を傷つける為、他人の迷惑を考えずに遊びで振り回す等、痴れ者が持った場合は “人斬り庖丁” になります。

 武術と武道があります。武術は術、技術です。技術を正しい事に使うために心身共に練り上げていく道が武道です。
必ずしも武道を嗜めという事ではありません。
皆様には刀を手にしていただきたいと思います。

持ってる刀

呪われている刀、なんてものが創作話に出てきますね。
現実にはありません。
手にしたら斬りたくなる等と言うのは話を盛り上げる為でしょう。作り話なら何でも良いと思いますが、現実には人を操る刀は無いでしょう。
人を斬るのは人です。